【REBELS.54】梅野源治インタビュー[格闘技]

「僕が歴史を変えるか、一発で倒されるか。必ず面白い試合になります」


聞き手・茂田浩司
撮影・山口裕朗

2月18日、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.54」にて、タイ国ルンピニースタジアム認定ライト級王座決定戦に臨む梅野源治(PHENIX)。 これまで、梅野はWBCムエタイ世界王座とラジャダムナンスタジアム認定王座を獲得。ルンピニー王座を奪取すれば日本人初であり、タイ人以外の外国人として史上初の「ムエタイ世界3冠王」という前人未到の記録達成となる。 だが、対戦相手は「KOキング」クラップダム。タイ国プロムエタイ協会王者にして、この階級屈指の強打を誇る強豪である。 これまでムエタイのトップ選手たちとしのぎを削り、互角以上の戦いで「日本ムエタイ界の至宝」と言われる梅野をして「一番やりにくい相手が出てきた」「一発でもまともに貰えば立てないと思う」と言わしめるクラップダム。この難敵に対して、梅野はどう戦おうというのか? 歴史的な決戦を前に、梅野の胸中に迫った。

――みんなの協力で実現したタイトルマッチ感謝して、人生の「頑張り時」に向かう

2月18日のタイトルマッチが近づく。昨年「ルンピニー王座を獲りたい」とREBELSに参戦し、実力者「超攻撃型ムエタイ」スアレック・ルークカムイ、現役ランカー「空飛ぶムエタイ」インディトーンを連破して念願のタイトルマッチに漕ぎつけた。大一番を前に、さすがの梅野源治も緊張しているかと思いきや、取材場所のクロスポイント吉祥寺ににこやかに現れた。 ハードな練習が続いていますし、体の疲れは溜まっていきますけど、とても充実していますね。これを獲るか、獲らないかで大きく違うので。人生の頑張り時ですよね。ここで頑張らなくて、いつ頑張るんだ、という(笑)」 会場には400人以上の大応援団が駆けつけて、梅野のタイトル奪取を後押しする。 「前から応援してくれる人たちはいましたけど、今はその輪が広がっているんです。僕がルンピニーのベルトを目指して頑張っていたら『梅野にもっと支援者をつけたい』とか『歴史的な試合をぜひ見て欲しい』とか、応援してくれる人たちがどんどん周りの人を紹介してくれて。僕自身は『チケットを買って来てください』といった営業はまったくしていないんです。本当に感謝ですよね」 今回、ルンピニーのタイトルマッチを実現させたREBELSにも「恩は返したい、と思います」と梅野。 「タイトルマッチを組むのにどれほど経費が掛かっているかも僕は分かっていますし、僕がやりたい試合をさせてくれたのはREBELSです。REBELSの旗揚げ戦がムエタイとの対抗戦で、当時日本のトップ選手たちと並んで僕も出させて貰って。その後も、いいマッチメイクをして貰いましたし、名前が売れたのもREBELS、「日本ムエタイ界の至宝」と付けてくれたのもREBELSです。昨年、ラジャダムナンスタジアム認定王座を失って、怪我も酷くて、一度は引退を考えた時に、救いの手をさしのべてくれたのもREBELS。だから、これから僕が出来ることを協力していきたいし、REBELSのために何かしていきたいですね」

――「KOキング」クラップダムをどう攻略するのか?

対戦相手のクラップダムは、ムエタイ事情に詳しい梅野がかねてから「KO率が高く、やりづらい相手」とマークしていた難敵である。 「本物のKOキングです。パンチが本当に強くて、ミドル、ロー、ヒジもすべての技が重くて、全部100、100の力で打って来るんですよ。 好戦的なタイプとはこれまでもやってきましたけど、ポンサネーはがむしゃらに打ってくるのでヒジが合わせやすかった。スアレック選手は狙って打ってくるので、ミドルキックが合わせやすかった。クラップダムはちょうどその中間ぐらいです。狙っても打つし、数も打ってきて、全部の攻撃が『強』。これほどやりづらい相手もいないです(苦笑)。 僕がクラップダムの攻撃を一発でもまともに貰ったら、その瞬間に試合は終わります。フックでもアッパーでもストレートでも一発貰うとKOされるでしょうね。ヒジも、チョンと合わせるヒジではなく思い切りドカン、ドカンと打ち込んでくるので貰ったら終わり。ミドルもローも一発を重く打ってくるので、それ一発でダウンすることはないですけど、蓄積するダメージが大きいので、貰っていると倒されるでしょうね」 サラリと「KO負け」を口にする梅野。 もちろん、クラップダムが狙う決定的な一発を喰らうつもりはなく、すでに攻略図も見えている。 「一発貰ったら終わりです。だから、僕はいかに一発貰わず、自分の攻撃を当てるか。その勝負になりますね。 クラップダムは攻撃をしながら前に出て、重い一発を打ってくる。僕もファイタータイプなので、下がらずに前に出ます。彼の攻撃をディフェンスしながらパンチ、キック、ヒジ、首相撲で攻めていく。ファイタータイプ同士、必ず激しいぶつかり合いになります。『せーの』で殴り合ったら僕は勝てないので、細かい駆け引きをして、いろんなテクニックを使って戦いますから、観る人はそこに注目してほしいです」 今回の王座決定戦、梅野の相手にクラップダムを指名したのはルンピニー側。対戦相手を聞いた時、梅野は「またか」と思ったという。 「僕は奥足ローをよく蹴るんですが、サウスポーには蹴れません。僕はルンピニーもラジャも、タイトルマッチは全員サウスポーを当てられるんです(苦笑)。『梅野に奥足ローは蹴らせない』ということだと思うんですけど、僕からしたら『見くびるなよ』と言いたいですよ。 確かに昔はサウスポーが苦手でした。ゲーオとやった時も(2013年)右ミドルを蹴れなかったので。でもヨードレックペットと2度目にやった時に練習しまくったので、サウスポーに苦手意識はまったくないですよ」 タイ側が明らかに「梅野源治」を意識し、梅野が苦手とするタイプを送り込んでくる。それはつまり、梅野を実力者として警戒している証拠。これだけでも凄いことだが、現在のムエタイの事情も関係しているという。 「クラップダムは僕にとって嫌なタイプで、怖いタイプを当ててきたな、と思いますが、今、ムエタイはスーパーフェザー級とライト級が充実していて、ランカーの顔ぶれを見ても全員強いです。他の階級のランキングを見ると「ここはねらい目だな」という選手がいるものですけど、スーパーフェザー〜ライトは下の階級でベルトを獲って、階級を上げてきた選手が勢ぞろいしてます。 だからウチのトレーナーも「この階級は難しい。頭が痛い」と言っていますよ。だからこそ、この階級のベルトを獲ることに価値があるのだと思います」 梅野の頭の中には、すでに「クラップダム攻略図」が描かれている。あとは試合まで、タイ人トレーナーとシミュレーションを繰り返しながら細部を詰めていく作業になる。 「トレーナーにクラップダムのような動きをして貰いながら、僕は考えている作戦を試してみて、上手くいかないところを修正したり『こういう攻撃が当たるんじゃないか』と話し合ったり。それで調整していきます」


――18歳から競技を始めた梅野は、なぜ10年足らずでムエタイの頂点に到達できたのか?

現在、日本の立ち技格闘技は、幼少期から競技を始め、ジュニアでたくさん試合を経験し、才能を磨き上げてきた「天才少年」たちが次々とプロデビューし、あちこちの団体で活躍する姿が目立つ。 彼らには「タイ人コンプレックス」がない。競技を始めた年齢も、早くに高度なテクニックを吸収したのも、アマチュアでの試合経験豊富なのもすべてタイ人と一緒。「ムエタイには到底かなわない」と思う必要がないのだ。 その中にあって、梅野は異色の存在といえよう。本格的なスポーツ歴はなく、競技を始めたのは18歳と遅い。にもかかわらず、わずか9年でムエタイ王座まで上り詰めた(16年10月23日、REBELS.46。ラジャ王座獲得)。 「『タイ人にかなわない』と思ったこと? ありますよ(笑)。 僕、最初は喧嘩から入ってるので(笑)。喧嘩は体重なんて関係ないじゃないですか。格闘技は体重を同じにしてくれるから『絶対に一番になれる』と思ってました。 でも、キックを始めてみたらアマチュア、プロ、日本チャンピオン、世界チャンピオンと強い選手がたくさんいることが分かった。一番衝撃を受けたのは『日本人世界チャンピオンに、遊びながら簡単に勝ってしまうムエタイの現役ランカー』を見た時でしたね。 調べてみたら、タイ人は子供の頃からやってる、家族や親族の生活の面倒を見てるとか、日本人との違いが色々と分かってきた。その時に初めて『本当に追いつけるのかな?』と思いました」 また、日本のキック界の根深い「ムエタイコンプレックス」にもその時に気づいたという。 「みんな『タイ人にはあれじゃ勝てない、これじゃ勝てない』と呪文のように言うんですよ(苦笑)。でも、よく見ていると、結果を残してない人ほど『タイ人に勝てない理由』を言うんです。 タイ人には首相撲じゃ勝てない、ミドルキックじゃ勝てない、判定じゃ勝てない。でも『世界一になりたい』という。すごい矛盾してるな、と(苦笑)。 よく『判定では勝てない。KOでしか勝てない』というんですけど、その時点で単純に確率を50%に狭めているんですよ。ムエタイにはパンチ、ヒジ、ヒザ、キック、4つの武器があって、ヒジ、ヒザ、キックでは勝てない、パンチしかない。この時点で4分の3の可能性を潰しているんです。それでパンチ、パンチでKOを狙う人たちがいて、そういう人で『強い人』を僕は今に至るまで見たことがないです。だから『あなたたちの可能性で俺をはかるな!』と思ったんです。 ただの負けず嫌いなんですけど(笑)、どうせやるならタイ人に対して首相撲でも、ミドルでも、ヒジ、ヒザでも、全部で勝てたら最高だなと思いました。 だから、まずタイ人トレーナーの言うことをすべて聞いてみたんです。タイ人トレーナーは『勝つためのテクニック』をいくらでも教えてくれるんですよ。でも、当時はプロ選手も会長も『日本人には難しいよ』と言っていて。僕だけ『はい、はい』とタイ人トレーナーの言うことを聞いて練習して、テクニックを身につけて、どんどん結果を残していったんです」 今、ジュニア出身の選手が結果を残していることも、梅野にとっては「当然のこと」という。 「勝てないわけがないんですよ。タイに比べたら、環境的には日本が圧倒的にいいんだから。 YouTubeで試合が見れて、タイ人の先生を日本に呼べてテクニックを学ぶことができる。僕はタイで練習したのはすべて合わせても1か月と1週間ぐらいです。あとは全部日本です。でも、タイで練習している人たちよりも、僕の方がムエタイは上手いですよ。 最初は、タイ人の先生から教わったことを練習して覚えて、それから自分で研究していろんなことに挑戦してきたんです。 僕は馬鹿なので(苦笑)、何回もミスをしてきたんです。そのミスの回数は他の人よりも多いですよ。格闘技の結果だけを見たら『順調にやってる』と思われるかもしれないけど、僕はこれまで練習の中で何回失敗して、何回怪我をしてきたか。 分かりやすい例として、最近、GACKTさんとトレーニングをしたり、大和哲也選手と合気道を学んだりしています。それをSNSに載せたら批判されたり、否定されますけど、試合で結果を残したから『意味があったでしょ』といえる。でも、たとえ結果が出なくても僕にとっては『意味がないことが分かった』ということなので、それが分かっただけでも僕にとって意味があるんです。やってみて『違う』と思えばやめればいいだけの話。自分にとって新しいこと、未知なことに挑戦した経験は必ずプラスになるんですよ」 最後に、クラップダム戦に向けて、ファンへのメッセージを貰った。 「歴史が変わる瞬間を見せたいですね。記事で見たとか、YouTubeで見たというよりも、その場にいれば確実に価値のあることなんです。 この試合を生で見ないで、他に何を見るんだ、と思います。つまらないわけはないんです。相手が相手なので、確実に凄い試合になるんですよ。 僕が一発で倒されるのか、その一発を許さずに日本人で初めてルンピニー王者となる歴史を作ることができるのか。ぜひ歴史の瞬間に立ち会ってください」



【プロフィール】
梅野源治(うめの・げんじ)
所 属:PHOENIX
生年月日:1988年12月13日生まれ
出 身:東京都
身 長:180cm
戦 績:53戦41勝(19KO)9敗3分
WBCムエタイ世界スーパーフェザー級王者、元ラジャダムナンスタジアム認定ライト級王者


「REBELS. 54」2月18日(日)後楽園ホール大会
<メインイベント 第10試合 ルンピニースタジアム認定ライト級王座決定戦 3分5回戦>
クッラップダム・ソーチョーピャッウータイ(Kulabdum Sor.Jor.Piek-Uthai)(タイ/プロムエタイ協会ライト級王者)
vs
梅野 源治(PHOENIX/WBCムエタイ世界スーパーフェザー級チャンピオン、元ラジャダムナンスタジアム認定ライト級チャンピオン)
ほか全10試合。



■大会名:REBELS.54
■開催日:2/18(日)
■会場:後楽園ホール (東京都)

チケットの詳細はこちら

2018-02-15 14:01 この記事だけ表示